先端医療、バイオへの投資額へ世界的に高まっており、調査会社ピッチブックによれば2018年のVCによる投資額は155憶ドルと10年で7倍に達したと報告している。

特に最近は、グーグルやアマゾンなどGAFAからの起業投資も顕著だ。また個人レベルの投資家では、アダム・ニューマン(2017年創業のライフバイオサイエンス)、ピーター・ティール(2013年創業の楽天メディカル)、ローレン・パウエル・ジョブズ(2013年創業のカラージェノミクス)、といった著名投資家のスタートアップへの投資が活発の中、次のグラフからはスタートアップの新薬の発明比率が伸びている事が分かる。
FDAで承認された新薬の発明元推移
Source:HBM New Drug Approvals Report 2019
日本人でも楽天メディカルを米国で立ち上げた三木谷氏などが、がん治療分野などへ投資を行っているのは有名だ。
不老長寿、がん治療、遺伝子検査、ゲノム解析分野が「キーワード」となっておりこの分野への投資額が突出している。Quantumbiosystems 本蔵氏などはまさにこの分野で起業している。
本蔵氏の記事はこちらから。
シリコンバレー駐在員としてCVCを長年経験、帰任を機にアメリカでの独立を決意し、米国で挑戦を続けているのが下川さんだ。
自身のコンサル会社である Bay Bluebird LLCを2018年夏に、仲間の創業者と共にIkigai Acceleratorを2019年1月に創立、更に姉妹会社のG4S Capitalの設立のため資金調達を始めて、「日本のエコシステムおよび日本発グローバル製品開発の促進」を企業理念に掲げる下川さんにお話を聞いた。
下川 建一郎 General Partner
*G4S capital & Ikigai Acceleratorは7名の共同創業者で事業を開始されました。下川さんがG4SのGeneral Partnerとして中心となっておりますが具体的な業務内容、創業の経緯を教えて下さい。
Ikigai Acceleratorはシリコンバレーの確立されたエコシステムを活用し、日本のエコシステムを促進させようという試みです。これは決して短期間に達成できるものではなく、長期スパンで日本発の世界に通じるバイオ産業の発展を支援していきたいと考えています。
シリコンバレーでスタートアップ企業に対してキャッシュフリーのプログラムを提供する予定で、共同創業者7名のもつ多くの人脈やノウハウをフル活用し、ブートキャンプを通じて、日本の企業文化とシリコンバレーでの企業文化を融合させ、更にポートフォリオ企業がExitにたどりつけるようG4Sを通じて投資支援をしていきます。
このモデルはシリコンバレーやボストンなどでは既に確立されている手法で、これを日本に向けてアレンジしていくことにより新しい市場を開拓できればと考えています。
*このビジネスモデルをやろうと思ったきっかけを教えて下さい。
私は米国駐在員で製薬会社のベンチャーキャピタリストとしてバイオテク企業への投資を仕事にしていました。
日本に投資候補を探しに行くこともよくあったのですが、日本の研究者の方は会社を興して資金調達というより研究提携を模索している例が圧倒的に多かったので、起業という選択肢を提供できないかとずっと考えていました。
自分が起業すると決めた時に周りの人にアイデアを話したところ、同じ志を持った仲間が沢山いることが分かり、それなら日本のバイオテク産業を支援する会社を一緒に作ろうということになりました。
*大企業を辞められての起業で様々な面でギャップを感じらている(かも)知れません。下川さんの経験上、大企業→起業をする際の、メリット、デメリット感じることがありましたら教えて下さい。日本の大企業から駐在で来ているが、スピンオフ、スピンアウトを考えている方にアドバイスをお願い致します。
大企業で働いても、起業してもメリット、デメリットは両方あると思います。当然ですが、大企業では看板を背負って仕事をしますので会社の方針に合わせる必要があります。
新しいことを提案したり方針転換をするためには多大な時間と労力が必要です。その反面、資金面、ネームバリューという意味でビジネス展開をしていくのは比較的スムーズだと思います。
起業をすれば自分の考えやマーケットに合わせて柔軟に事業方針を決定できますし、ニッチな部分でも入って行きやすいですが、資金面では苦労します。ただ、意外に周りからの支援も多いことに気が付きます。
自分が考えていることが周りに認められたり、軌道修正しながら更に賛同を得たりすることを直接実感出来ますので、遣り甲斐は大きいです。自分にアイデアがあるのでしたら、思い切ってまず一歩を踏み出してみては如何でしょうか。
*バイオテックという言葉があるように、がん、糖尿病、アルツハイマー、パーキンソン病などの研究に対してシリコンバレー・米国ではテック企業やスタートアップ企業の研究開発が盛んに行われており日本の製薬メーカー・中小企業が周回遅れをとっているように感じるのですが、実際は如何でしょうか?
バイオ系のスタートアップと大手中小製薬会社の一番の違いはスピード感でしょうか。日本でも最近はそうなっていると聞いていますが、一般的に欧米大学では特許出願→論文を書くという順番を採っており、論文が出る頃には既に研究者は起業して準備が出来上がっている状態です。
製薬会社、特に日本では論文を見てそれに関するプロジェクトを立ち上げていますので、プロジェクトが立ち上がった際には既に周回遅れになっているんだと思います。
また、近年ではエコシステムが確立され成功者が周りに沢山いる状態になっていますので、その方々が起業家のメンターとなり研究開発方針、資金調達、人材育成の手助けも盛んに行れており、必要最低限の実験でPOC(proof of concept) を確立し事業を進めます。
更に投資のスピードもM&Aのスピードも圧倒的に早い。この差は大きいと思います。
*過去10年で7名の医学関係のノーベル賞受賞者を輩出するなど日本のイノベーションの質は世界トップクラスにあると思いますが、産学連携がうまく機能していない理由はなぜですか?
過去10年で7名の医学関係ノーベル賞受賞者を輩出(物理学賞を含めれば12名)
日米の大学研究者の考え方の違いが大きいと思います。米国ではビジネスと研究とを完全に分けている研究者が一般的です。自分の研究がビジネスとなり経験とお金を生み、それをステークホルダーに還元するという感覚です。
経営は専門家に任せて自分は科学面からバイオテクへの貢献をするということです。自分の研究から次々に新しい会社を興し、自分はその会社の科学面をサポートします。ちなみにバイオ産業は研究、臨床開発、申請、上市と色々なステップを踏みますので、それをすべて一人の経営者が行うことは殆どありません。
研究者は科学面でずっとサポートする場合も多いですが、経営者はステージによって専門家が違うので、欧米のバイオテクは経営者がころころ変わります。日本では自分の研究内容が、企業経営者と組むことによって自分の手に及ばなくなることに抵抗を感じる方が多いのかなと感じています。
また、ベンチャーキャピタル (VC) の資本金は米国と日本では50倍もの開きがあります。それには日本ではリスクを取るということに抵抗を感じる文化ということも一つの理由だと思います。そのリスクを少なくする解決策をエコシステムを確立することで変えていく必要があると考えています。
日本には素晴らしい研究技術が埋もれています。その技術をGlobalに展開し産業化すれば投資効率もあがりますし、経験値も上がります。日本のエコシステム確立促進に繋がります。
大学関係者、起業家、医薬産業、政府機関を巻き込んで、 Ikigai Acceleratorを活用することによってそのお手伝いをしていければと考えています。
*バイオ、ヘルスケアの業界を問わず今後、起業を考えている方、起業をしたが壁にぶち当たっている方へ、一言お願いをします。
「まずは行動を」というのが一番大事だと思います。シリコンバレーの特徴としてトライ&エラーを繰り返しながらスピード感をもって進んでいく人が多いです。日本では失敗することは悪だという意識もありますが、ここでは失敗することは悪いことではなく、失敗しなければ成功はない(すなわちリスクを取りに行く)という文化です。
勿論失敗し続けるのはダメですが。失敗から学ぶことが重要です。躊躇していたら目の間にある「チャンス」がどんどん素通りしていくだけです。「初めの一歩」を踏み出せばそこに自然と人が集まりますので恐れずどんどん前進して行って欲しいですね。
下川 建一郎 General Partner
プロフィール
1989年 名古屋大学卒業
1995年 University of Pennsylvania Ph.D.取得, Organic Chemistry 専攻
1996年 山之内(アステラス)製薬R&D
2011年 アステラス製薬CVC
2014年 参天製薬CVC
2018年 Bay Bluebird LLC 創業(メンター、コンサルティング業務)
2019年 Ikigai Accelerator LLC 創業(アクセラレータ業務)
G4S Capital 設立準備中(VC業務)
CVCではバイオ系を中心に21社への投資実績があり、8社がExit。
以下、共同創業者
Ken Shimokawa PhD – General Partner, G4S Capital
Caleb B. Bell III, PhD – CEO Ikigai USA
MaryJane Rafii PhD – Partner, G4S Capital
Yuko Terasawa, PhD – COO Ikigai USA
Robert Kneller MD, JD, MPH – Shacho Ikigai Japan
Akiko Futamura, PhD – CSSO and Director
Hiro Masumoto – CBO and Director
Collectively founded 32 Co’s; connected 115+ programs in Japan and US; supported $1.2B (¥131B)1in financings; $251M (¥28.2B) in partnering; seen 30 exits creating over $2.1B (¥239B) in value and counting