スタートアップ NEDO活用術

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と聞くと

大企業支援だけかな?と思う方も多いはず。しかし、日本に拠点を構えるスタートアップであれば支援を受けるチャンスはあり、実際に活用し、米国進出のきっかけを作っている企業も沢山ある。

6つあるNEDO海外事務所の中でも圧倒的な起業家支援プログラムの数をこなしている、シリコンバレー事務所亀山所長に話を伺った。

NEDOシリコンバレー事務所の亀山所長

①NEDO主催の起業家支援プログラムについて教えて下さい。

日本の企業で米国進出に興味のある方々をまずは日本側で募集しています。

シリコンバレー向けのプログラムはこれまでに7回、4年ほど前から実施しております。どういうプログラムかと言いますと、日本の企業に、全体で1カ月くらいの期間でプログラムに参加して頂きます。数回のウェビナーを実施した後、日本でまずはブートキャンプを4日間ほどかけて実施します。

その後は、シリコンバレーがどういう所かという事をしっかりと頭の中に叩き込んで頂いてから実際に1週間ほどシリコンバレーでブートキャンプに参加し,最終日には現地の投資家向けのピッチイベントを用意し、実際にプログラム参加者の方々にピッチをしてもらいます。

このJapanese Pitch Night と呼ばれるピッチイベントは直近では昨年11月にSFダウンタウンで行われ、日本のスタートアップ企業が4社参加して現地のVCを相手にピッチしました。

このプログラムに参加したことで実際に米国に拠点を構えた企業もあります。こうした企業が次々と生まれることによって、より多くの日本の企業が米国進出への足掛かりにしてもらえればと思っております。

NEDOのスタートアップ支援プログラム等に過去参加したことがあり、日本に拠点がある企業であれば応募頂く事はできます。米国に支店、支社などが既にある企業は、その方が参加頂く事も可能です。

NEDOとしてもより多くの企業の米国進出の後押しをできればと思います。

②NEDOシリコンバレー事務所が現在取り扱う案件として2015年から取り組まれているEV実証事業チャデモ式超高速充電器、サンディエゴで行われているレドックスフロー電池事業があります。どういった成果が挙げられておりますか?

2014年9月に、日本とカリフォルニア州政府間において「気候変動、再生可能エネルギー、貿易及び投資、自動車、高速鉄道及び水に関する協力覚書」を締結致しました。ご存知の通り、カリフォルニアは車社会という事もあり、気候変動や自動車の分野は、州政府、並びに地域住民の関心が非常に高く、政策やビジネスにおいても日本や日本企業が学ぶ事が多いと考えております。

ソーラーパネルの導入率も高く、ゼロエミッションといわれる自動車の販売率もCA州が全米の約50%を占めるなど数値として出ています。

日本が将来目指すべきモデルが既にカリフォルニアでは行われている為、日本ではまだ顕在化していない課題を日本の技術力でどう解決できるかを実証できるよい機会となっています。

米国カリフォルニア州でのEV実証事業に関する動画はこちら

最近は100kwの超高速充電器も導入

米国初、レドックスフロー電池の電力卸売市場での運用を開始

再エネ導入に伴う需給変動対応として2020年までに1.3GWのエネルギー貯蔵システムの設置義務などを定めた州法を背景に住友電気工業と共に同州サンディエゴで進めておりRF電池としては米国の電力卸売市場へ初参入となっている。今後はRF電池のさらなる経済価値の向上を目指している。

➂2019年3月にオースティンでのSXSWのイベントにNEDOとしても参加しています。今後の業界の風向きなど感じられたことを教えて下さい。

SXSWは音楽や映画に加えてスタートアップの祭典としても有名ですが、今年の展示会場では日本のスタートアップが圧倒的に目立っていたと思いますし、またピッチセッションでも日本人起業家がファイナリストとして立派にプレゼンされていて、日本のスタートアップ業界の勢いを感じることができました。

また、SXSWの関連イベントとしてNEDO主催のピッチイベントなども開催させて頂き、J- Startu upという日本のスタートアップ企業のブランディング支援も兼ねて日本のスタートアップ企業とローカル企業とのコーディネートもしてまいりました。

過去の我々のプログラムを通じて米国オースティンに進出を決めた日本企業もあり、今後とも支援を継続して行きたいと思います。

今年3月のSXSWのサイドイベントとして行われたNEDOピッチイベントの様子

そして今後の動向として注目している技術の一つが、「水素エネルギー」です。TOYOTAのMIRAI、HONDAのCLARITYが自動車メーカーでは世界の自動車メーカーの先陣を切っております。

一方商用水素ステーションでは39カ所と日本の約1/3の数に留まっています。日本でトップサプライヤーである岩谷産業や三井物産などがカリフォルニアでのオペレーションや投資を開始しており、日本勢としてこの市場への参入を加速していく良い機会と考えております。

CA州にあるNPO法人は2030年までには水素ステーションを1000基設置に向けて目標を掲げており、今後、日本企業にとって大きなビジネスチャンスが広がっていくものと思います。

水素自動車分野でも先陣を切っている日本車メーカー

④大企業ではなくスタートアップレベルでNEDOさんと協業をしている事例がありましたら教えて下さい。

例えばAIのジャンルでは、シナモン昭和電工MUJINとソフトバンクなどがスタートアップと大企業のタイアップとしてNEDOのプログラムに採用されています。

カリフォルニアの企業では、例えばEV実証事業において日産、兼松と並んで急速充電では業界シェアトップのEVgo というローカルのスタートアップ企業とも手を組んでいます。

⑤亀山さんは公的機関として民間企業をサポートする立場にあると思いますが、日本の企業は他国のシリコンバレー進出企業と比べてどのように見えますか?

「内向き志向を変えていかないといけない!」と思います。グローバル時代に突入にして長いですが、日本の企業はスタートアップ企業も含めて一般的にはまだ国内市場に目を向けている企業が多いと感じております。

また、既に駐在で海外に来ている人に関しても、ローカルのネットワークに入り込むことを必要以上に躊躇する方が多い印象です。日本には優れた技術や人材が存在し、世界と戦える大きなポテンシャルを持ってまいすが、日本の特殊な環境の中だけで成功しても世界には通用しません。

日本企業が海外での経験とネットワークを蓄積しつつ、海外での挑戦を拡大し、もっともっと世界に通用するビジネスを生み出せるようになっていくことを期待しております。

NEDOとしても、日本企業と現地の企業を結びつけるイベントの開催、スタートアップ企業のシリコンバレー研修プログラム、海外での第一歩を踏み出すための実証事業支援など、それを後押しするためのプログラムを様々実施しております。Team Japanで皆さん一緒に頑張りましょう!

亀山 慎之介 プロフィール

1999年 東京大学経済学部卒

1999年 通商産業省(当時)入省

2006年 University of Southern California MPP(Master of Public Policy)取得

2016年 NEDO Silicon valley 所長