10年後には消える世界の証券会社を見据えた経営戦略でアルパカがAPIを通して世界の金融市場をハッキング
シリコンバレーに移住して13年目となるが、かねて感じるのが日本のプロダクト(自動車・電化製品・日本食・教育)はよく目にするが、それらを扱ってビジネスをしている人たちの多くが日本人以外という事だ。
もの作りに関する技術力は世界トップクラスだが、経営力となると世界から致命的な遅れを取っているのかと危機感を覚える。
そもそも米国に住む日本人自体が少ないので仕方ないのだが、10年に1度行われる Census2010(日本の国勢調査)によると、アジア系はアメリカの全人口の5.6%を占めており、Chinese 3.79million, Filipino 3.41 million, Indian 3.18 million , Vietnamese 1.73 million , Korean 1.7millionに次いで Japanese(Japanese-American含む)は1.3millionとマイノリティーだ。
鼻息の荒い日本人経営者にシリコンバレーで出会う事ができた。日本国外で金融機関(銀行、証券会社)を初めて立ち上げた日本人をご存知だろうか?おそらくこの会社、この人以外には誰もいないだろう。
アルパカの横川 毅氏だ。
2008年、経営破綻したリーマンで働いていた横川 毅氏は「リーマンが経営破綻?!」とその時、啞然としたという。
そう今の世の中、何が起きても全くおかしくない。
ジェフ・ベゾスでさえ「アマゾンもいつかは倒産する」と明言をしているくらいだ。
リーマンの経営破綻を肌で感じた横川氏が数人の創業者と共に世界金融市場のハッキングに挑んだ。
アルパカが提供しているサービスは、API接続に特化した証券会社であり、しかも取引手数料無料というのが他の証券会社にはない特徴。
*API(Aplication Programing Interface)とは基本ソフト(OS)やアプリケーション・ソフトなどがその機能の一部を外部に公開し、外部のソフトやウェブサービスからでも簡単に利用できるようにする仕組み。共有できる機能の仕様や手順、使い方のルールなどを定めた規約も合わせて提供される。APIとして無料で公開されている機能も多く存在し、新たに機能の開発をする必要がないため、サービスを効率的に開発できる(野村證券より引用)。
世界の金融市場はここ数年、フィンテックの台頭・株式取引手数料の低下により、従来の証券会社が淘汰される一方で、新規参入組が増えている。日本の金融市場では、リーマンショック前で322社、それが15年末には252社となったが、2018年では267社とここ数年で増加傾向にある。(日本証券業協会調べ)
一方足元の米国では、約3600社の証券会社がひしめきあっている。(2019年5月1日現在)日米の数を比較しただけでも市場規模の大きさが一目瞭然だ。
その米国市場で横川氏はどんな戦略で、何をしようと考えているのか?
10年後の世界の金融市場を見据える横川氏に話を伺った。
証券会社はスーパーと同じ?!
一般の方には、私のやっているビジネス内容がかなり難しく感じると思いますが(笑)、
アルパカのビジネスモデルは、ターゲットとするユーザー層をプログラミング開発者に特化させたネット証券です。
証券会社をスーパーに例えると分かりやすいかと。アメリカのスーパーを見てみますと、米系では、Safeway 、Trader Joe’s、Whole Foods、Luckyがありますよね。アジア系ではRanch 99、H Mart、Marukai、Mituswa、Nijiyaなどが有名だと思いますが、皆さん似たようなものを(きゅうり、肉、魚、ミルク)どのスーパーでも売っていると思います。
でも各スーパーはそれぞれターゲットとする顧客層が違うはず。価格志向、アジア志向、オーガニック志向等。それと同じでアルパカは証券会社の中でも、プログラミング開発者をターゲットとするユーザー層として絞り、彼らがサービスやアルゴリズムを簡単に開発して使えるAPIを手数料無料で提供しています。
UX(User Experience)ではなくDX(Developer Experience)を意識したプロダクトという事でしょうか?
はい、その通りです。UX(User Experience)という言葉は皆さん聞いたことがあると思いますが、我々がより意識しているのはDX(Developer Experience)。スタートアップという事もあり、ターゲット層をプログラミング開発者に絞り込んで彼らにプロダクトを提供しています。
かなりニッチにユーザー層を絞り込んでいますが、プログラミング開発者向けの証券会社としては世界一だと自負しております。
シリコンバレーに会社を構えているからこそ、ターゲット層をエンジニアに絞ることによって、彼らの力を借りながら一気にユーザーを広めようというのが我々の狙いです。
YC(Y Combinator) W19バッチを受けられました。
我々のターゲット・ユーザー層であるプログラミング開発者の間でYCのブランドは最高峰であり、YCカンパニーになることでユーザーからの信頼を高めたかったことと、シリコンバレーでの資金調達や採用活動において大きなメリットがあると考えて、YCのW19バッチを受けました。
シリコンバレーで会社を作っていくに際して、先輩起業家、ビジネスパートナー、ベンチャーキャピタル、エンジェル投資家等の、たくさんの人たちからの紹介やサポートが必須です。
日本で育って日本の学校に行っていたことは、これらのネットワーク構築に特にプラスに働きません。ここには世界中のあらゆる場所から最高峰のビジネス環境を求めて色々な人材が集まってきて、成功するためにあらゆる手段を使ってネットワークに入るために必死にやっています。
どこの馬の骨かも分からない輩だと思われないためにも、スタンフォードMBAに入ったり、ハーバードの卒業生であるというステータスを取りに行きますし、それらのステータスがあるからこそ色々なドアが開くのは事実だと思います。
その中で、私が選んだ「YCの卒業生」というステータスは、シリコンバレーで事業を行って投資家に会って優秀な人たちを採用する上で、有名大学やMBA卒業よりも更にワンランク上のピカピカしたものとして認識されています。
勿論、YCはステータスだけではなく、バッチプログラムの期間中は不可能としか思えないような目標値をたてて、それを鬼になって何が何でも達成しにいく、実際に出来てしまうような環境やアドバイスを提供してくれます。
更には、プログラムが終わってからも、YCからの紹介によってたくさんの人たちに出会い助けてもらうことができます。引き続き、ビジネスを進めるために、YCにたくさんのことを助けてもらっています。
米国で証券会社を作りました。ずばりどんな事が必要なんですか?
簡単に言ってしまえば銀行を作るのと同じような審査過程を踏んだわけです。めちゃくちゃ大変でしたよ(笑)。
証券会社を作るのに必要な事は、分かり易く言えば、どうやって儲けて売り上げを作るのかということよりも、コンプライアンスやセキュリティ管理をしっかりと行う準備があるのかを証明する事の方が重要なんです。
マネーロンダリング対策、万が一の際の保険、重要書類の保管方法など審査項目が多々あって、様々な準備や審査を含めると最低でも1年以上かかります。書類だけで1000ページ以上の情報を提出しないといけなかったのでそれらの資料作成だけでも相当な時間とマンパワーを掛けました。
実際に、証券会社を作った事のある人材を採用しなくてはいけませんし、多くの難題がありましたが、何とか昨年2018年10月23日にリリースする事が出来ました。
ご協力頂きました皆様にこの場をお借りして御礼致します。
アルパカを通してどんな問題を解決しようとしていますか?
ご存知の取りアメリカはGDP、国力、軍事力全てにおいて世界の中心であり、それを支えているのが強いアメリカ経済というのは間違いないと思います。
株・不動産・債券など様々な金融資産・金融商品があり、巨万の富を得ている人たちが多いのも事実です。じゃ、アメリカに住んでないとそうのような金融商品にアクセスできないのか?と考えたときに、そうではないと。
日本にいようが、アフリカにいようが、その場所や文化に即したそれぞれの異なるサービスやアプリを通じてそのような金融商品にアクセスできるべきだし、そのような異なるたくさんのサービスがグローバルレベルで簡単に作れるようなインフラを作りたいと思ったのが一番強い思いです。
まさに世界の金融市場をハッキングです。これはアルパカでしか出来ません。
皆さん楽しみに近い将来を見ていて下さいね。金融市場もガラッと変わりますので(笑)。
横川氏は、慶應SFC卒、リーマン・ブラザーズ就職、野村證券に移籍、アルパカ起業、Y Combinator修了と確実にキャリアをステップアップさせながら成長を続けている印象だ。
絶対的な自信の裏付けは、プログラミング開発者(ユーザー)の声にしっかりと耳を傾け彼らの望むプロダクトを日々アップデートしながら作り上げているからに違いない。
横川 毅 プロフィール
2004年 慶應SFC時代にリーマン・ブラザーズにてインターンシップを経験
2005年 慶應SFC卒業
2005年 リーマン・ブラザーズに入社
2008年 野村證券に移籍
2015年 米国にてAlpacaDB, Inc.を設立
2018年 証券会社ライセンスを取得完了して取引手数料無料のAPI接続特化の証券サービスを米国でリリース
2019年 Y Combinator W19バッチ修了