創業者 樺山氏が語る、シリコンバレーで起業した3つの理由。
樺山資正氏は、商社マンの父親のもと、幼少期の多くを海外で暮らした。
3歳~8歳までをカナダのトロントで過ごし、日本に帰国後は、インターナショナルスクールの名門セントメアリーズに在籍。高校時代をニュージャージー州のローレンスビルスクールで過ごしたのち、フィラデルフィアのペンシルバニア大学(通称:ペン大)を卒業する。
ペン大は、米国屈指の名門私立大学連合であるアイビー・リーグのひとつとしても有名で、2019年の合格率は7.4% と、いまなお全米最難関大学の一つとして君臨している。後に樺山氏の上司となるイーロン・マスクも97年に同大学に通っていた。
今回取材を行ったパロアルトにあるCoupa Cafe – Ramona 2004年に1号店がオープンし現在はベイエリア11箇所に展開。
シリコンバレーの起業家達がよくピッチに使うカフェとしても名高い。
樺山氏は仕事をする上で、以下3つのポリシーを大切にしている。
①パッションを持って打ち込める業務であること
②最高のユーザーエクスペリエンスを提供できること
③社会にとってポジティブであること
渡米3年が経過した今、これまでの経歴や起業に至った動機を伺った。
レゴ、アップル、テスラと外国企業が日本でサービス・プロダクトをローンチする際の新規事業責任者を歴任されてきました。これらのポジションで学んだことを教えてください。
まず、レゴからお話しますね。ご存知のとおり、レゴはデンマークの玩具会社です。
創業は、1916年。ビルンの木工所が原点の一族経営。
今では世界中の子供達に知らており、抜群のブランド力を誇っていますが、私が在籍していた2003年頃、本社には一つの課題が浮上していました。それは「教育的観点からビジネスを強化できないか、それをよりシステム的にできないか」という問題です。
私はその課題を解決する為、レゴ社のレゴエデュケショーンと言う独立採算制の事業部の日本の責任者となりました。
新規事業を立ち上げると共に、教材としてレゴを使った教育システムを確立すべくパートナー先を模索したり、文科省や各自治体の教育委員会にプログラムの提案を行いました。
なんとしても、日本の教育システムにレゴを組み込み、より想像力や問題解決力を楽しく学習できる様にしたかったのです。
今でこそ、STEAM (Science, Technology, Engineering, Arts, Mathの略) 教育の重要性が認知されておりますが、当時は、その単語もなかったので、全く新しい市場を開拓していたという感じでした。
結果として、レゴスクールをゼロベースから31店舗まで拡大することができ、良いチームにも恵まれ、とても大きな成果を出す事ができました。会社のブランド力を更にアップできたと自負してます。
店舗拡大という目に見える成果、いわば定量的な結果も、嬉しかったのですが、会員になって頂いた親御さんから御礼のお言葉を頂いたり、ウェイティング中の親御さんから「樺山さん、もっと生徒数を増やせないんですか?」という言葉をいただくなど、定性的な声を通じて、想像以上にレゴスクールの必要性を感じられたことも大変嬉しかったです。
又、日本国内で子どもによるロボットコンペ(ロボコン)の一番大きい参加人数を築きあげました。これらのロボコンは各地域の予選大会を勝ち抜き、国内大会のトップチームは国際大会へ出場します。
そこであらゆる国籍の同年齢の子ども達が競い合いながら、異文化や他の言語に触れ合う事ができます。ロボコンを通して世界中の子供達の国際交流を推進する事がゴールでもあったのです。
他にも業務責任としては、P/Lをみたり、HRもやったり、それこそ在庫管理まで(笑)できたことは、大変貴重な経験でした。
あれだけの会社の新規事業の責任者をさせてもらったのですから「誰もが想像できないようなどでかい戦略を描いても良かったかな。」と振り返って思う事はあります。
例えば、5年以内にレゴスクールを100校展開するのにはどうしたら良いか、単なるプログラミング学習だけでなく、想像力を高めるスキルを学校の教育システムに必須科目として認可させるにはどうすべきか、といった事も取り組みたかった。
その想いは後に舞台をアップルに移して実現させることになるのですが。
2010年にレゴジャパンからアップルジャパンの教育事業本部長に就任しました。
もともと大のアップルファンというのが一つの理由です。自分が学生の頃に使用していたのもマッキントッシュSE、使用していたカメラもクイックテイクというアップルの製品でした。
1987年に発売されたマッキントッシュSE
そして、なんといってもタイミングです。2010年は、あの初代 iPadがリリースされた年。そのタイミングに合わせて「その責任者をやってみない?」とお声を掛けて頂きました。さすがに断れないですよね(笑)。
iPad introduction (27 Jan 2010)
ご存知の通り、2010年頃といえば、市場の99%がWindows。ハードもNEC、Fujitsuの独占市場。そこに入っていくのはほぼ無理な状態でした。当時の日本市場における、アップルの存在はまだまだ「完全なるチャレンジャー」でしたから。
しかし、iPadがリリースされたことで、全く新しい市場が生まれたのです。新しい教育ツールが生まれたことで「業界の“ゲームチェンジチャー”になれる!」と確信できました。
その想いは実現し、2013年頃の調査レポートで、iPadが日本の教育市場での占有率が 35%強になった事もありました。マーケットシェア拡大に多少なりとも貢献できたと思います。
iPad上でレゴマインドストーム(レゴのロボット教材)をプログラミングしている様子
アクティブラーニングとグループでのプロジェクト学習の様子
そして、2014年モデルS リリースのタイミングでテスラジャパンの社長に就任されます。
イーロン・マスク氏率いるテスラには、モデルSリリースのタイミングでお声をかけて頂きました。新しいプロダクト・サービスをリリースするという事で、レゴやアップルでの経験や成果を評価いただいたんだと思います。
新規事業の場合は、まずお客様にいかにプロダクト・サービスの重要性を知って頂くかが一番のポイント。
モデルSの例でいえば、デザイン面、環境面での優位性を前面に押し出し、そしてまずは「試乗」していただく、という事を徹底的に行いました。試乗していただければほとんどのお客様が「テスラファン」になっていただけると信じていました。
こうして、あらためてふり返ると、レゴスクール、iPad、モデルS・・・。きっと私は新しいことをするのが好きなんでしょうね(笑)。
スタートアップも大企業も経験されました。起業が頭によぎったのはいつ頃ですか?
実は20代で就職した未来技術研究所(MILAI)が最初に経験したスタートアップです。一番起業に近い経験をさせてもらったと感じています。ここでも新規事業部の立ち上げの責任者に任命されたのですが、やる事といったら、飛込み営業や、コールドコール、セミナーに参加しての名刺配り。さらに金融機関との資金調達・借入れ等の交渉なども、ほとんど自分でやっていました(笑)。
MILAIは、「デザインコンサルティング」を専門にした会社で、当時は車などの工業製品を高品質のCGで再現していました。ちょうど自動車以外でも、ゲーム業界、テレビ業界などがCGを取りいれ始めた時代だったので、会社も自分も飛躍的に成長を遂げることができました。
長く住んだ日本を離れ、シリコンバレーで起業されたきっかけを教えて下さい。
自分の年齢を考えると今しか無いと思いましたが、実は妻を説得するのが一番大変でした(笑)。
なぜ、日本ではなくシリコンバレーで起業したかったかというのは、次の3つに集約されます。
①最初から世界市場をターゲットに活動ができる
②外資系日本支社の責任者と言えども、やはり一事業部の責任者という意味が強い
③起業家にとってシリコンバレーのエコシステムほど魅力ある場所は他にない
レゴジャパン、アップルジャパン、テスラジャパン、「世界で多くのコンシューマーに愛されるプロダクトを提供しているトップ企業」を経験したら、次にめざすのはやはりZero to One, 即ち、何も存在していないところから多くの人たちが日常なくてはならないプロダクトやサービスを生むことです。それを一番早く実現できるのがシリコンバレーだと考えたからです。ここ(シリコンバレー)で、upliftでも世界の多くの人たちに愛されるプロダクトを開発できるのを目指します。
uplift labs,Inc.創業メンバー、創業経緯など教えてください。

創業メンバーは、私とCTOのジョナサンとChief AI Officerのラフルの3名です。ジョナサンはすでに自分の会社を2016年にGoPro社に売却した経験をもっており、画像認識のプロフェッショナル。ラフルは、カーネギーメロン大学でAIの博士号を取得しており、AIのプロフェショナルです。
私は、日本にいた頃クロスフィットで体を鍛えるのが好きだったのですが、トレーニング中に怪我をしてしまいました。この怪我を防止するプロダクトを作りたいと思ったのが、創業のきっかけです。
アスリートでなくても、怪我をすると非常に不便な生活を強いられますが、これがプロスポーツ選手となると、選手生命を絶たれることにもなりかねません。
もちろん、全く体を動かさなければ、怪我もしないのですがそういうわけにもいきません。我々upliftは、開発中のAIを駆使した運動解析ツールを使用することで、人間の「動き(動態)」から派生する怪我を防いだり、運動フォームの改善の為のアドバイスをリアルタイムに受けられることを目指しています。
弊社のフィロソフィーは、”Improving human movement performance across all parts of life”。
スポーツ、エクササイズ、日常生活における全ての人の動きのパフォーマンスをupliftの技術を用いることで、改善していきたい。より良い健康な人生を提供していきたい。
これが我々のミッションだと感じております。
最近では、MIT Sloan Sports Analystics Conference やSPORTS TECH TOKYO といったカンファレンスやデモデイに参加したり、あらゆるプロスポーツ界の方々とも繋がりをもち、積極的な活動をしております。かなり手応えを感じており、そこで培ったプロマーケットにしかないエリートスポーツのノウハウを、若手スポーツ選手や大人も含むアマチュア選手達にもシェアしたい。
体をより健康的にし、怪我を軽減させ、自分の理想な運動パフォーマンスが発揮できる様にしたいのです。今後は、更なるユーザーエクスペリエンスを増やしながらAIを活用したスポーツテック市場を開拓していければと思います。
※取材を終えて※
奇しくも日本では、ラグビーワールドカップが熱狂を生み、TOKYO2020を来年に控え、まさに「動き」に関するニーズが、千載一遇の高まりを見せている。
常に「パッションを持ってビジネスに打ちこんできた」樺山氏の新たな「動き」に、いっそう注目していきたい。
樺山 資正プロフィール
2017- uplift labs,inc. 共同創業者兼CEO
2014-2015 テスラ ジャパン 代表取締役社長
2010-2014 アップルジャパン 教育事業部 本部長
2003-2010 レゴエデュケーション カントリーマネージャー
1991 ペンシルバニア大学建築学科