さて、今回は、1月号の記事の最後で触れましたWEPについて詳しくお話したいと思います。
日本の年金を受給している方が、その後米国年金の受給申請手続きをすると米国年金が通常のケースより低い年金額に減額されてしまいます。その根拠がSSA(米国社会保障局)が規定するルールであるWEP(Windfall Elimination Provision棚ぼた排除条項)。
WEPは減額となるケースについて “あなたの給与からSocial SecurityTax(社会保障税)が徴収されていない仕事に基づいて年金を受け取っていた場合、棚ぼた排除条項はあなたの退職給付又は障害給付の額が計算される方法に影響します。
調整された計算式を使ってあなたの給付額を計算するため、もともと受け取ったであろう額よりも低い額の社会保障給付になりす”と規定しています。
米国年金と日本年金とはそれぞれ受給資格さえあれば、独立して別個に年金が両方から受給できると考えますが、実際はそうではないケースがあることに注意する必要があります。
つまり、根拠となる規則がWEPなのです。
この規則が適用される背景には、米国年金が、相対的に低所得者を優遇している為、比較的短期間の米国年金加入者(=日本の駐在員)は年金額計算上有利となってしまい、更に駐在員の場合、日本の年金も受け取ることから、いわゆる「棚ぼた」状態となるとの判断から、その状態を調整しようとする狙いがあるようです。
具体的にWEPの対象となる日本の年金は、厚生年金、共済年金といった公的年金だけ。但し、国民年金は個人で積み立てた年金であり就労(仕事)に基づいて得た年金ではないので対象外です。私的年金も対象外です。
適用の例外となるケースは、
(1)遺族年金受給者
(2)米国年金加入期間中、30年以上の社会保障上の高額収入(substantial earning under Social Security)を得ていた方の場合
(3)米国年金の加入期間が10年(40クオーター)未満のため日米の年金加入期間を通算して米国年金を受け取る場合、つまり日米社会保障協定を活用して米国年金を受け取る場合は、本来の年金支給では無いとの判断からWEPの適用外で減額されません。
しかしながら、最近国民年金に対しても減額の対象としてしまうケースが多発しています。国民年金はWEPで定める就労に基づく年金ではなく居住に基づくもので明らかにWEPの対象外です。
SSAも居住に基づく年金に対してはWEPの対象外として、社会保障協定締結国の中では7か国の制度をWEP適用対象外リストに掲載しています。減額金額は最大月額463ドル(2019年度)です。
老後の生活資金として海外からコツコツと積み立てた、また日本のご両親が愛する子供の為に積み立てた国民年金が思いも掛けず理不尽にも減額の要因となってしまう現実に多くの方が困惑されています。
解決策は、日本政府がSSAにたいして日本の国民年金の制度の説明をして、国民年金をWEP適用対象外リストに追加しても事が一つの案として考えられます。
代表 市川俊治